Record #07 -- oxford record -- [ PREV ] [ NEXT ]




Record Details


くるり 学(まなぶ)の 牛津録
Record #: 07

Title: 「故郷からの手紙」

Issued on: 2002年4月18日
Last modified: 2002年4月19日

メルマガで発行したモノを、加筆修正して、随時ここにアップしていきます。



your picture here
◎編集後記


 こんにちは、くるり学です。今回の話、いかがだったでしょうか?
 予定してた話をそっちのけで、クイーンマザー記念号をとりあえず書いてしまいました。最後に名前が出てくるだけですが(汗。
 記憶の中に残っている父親からの手紙、そのあやふやな印象だけをモチーフとして、一応またしても創作です。フィクションです。
 どこからどこまでがフィクションかは、またまた読者様の自由に委ねたいと思います。

 日本人・非日本人に限らず、周りにハーフの知り合いが多い中、僕の両親はどちらも日本人で日本に住んでいます。幸い二人とも今は健康なので、将来の事を真剣に考える機会が少ないのですが、離れていると少し気懸かりではありますね。留学中に考える事の一つです。

□付記:詩に関して

 頼山陽は、江戸後期の高名な儒学者で、当時、三博士と呼ばれていたそうです。
 原文は以下の通り。といっても底本はありません。微かな記憶をネット検索で確かめました。(いい加減ですみません。)

  千 安 人 天 逝 十  述
  載 得 生 地 者 有   
  列 類 有 無 已 三  懐
  青 古 生 始 如 春
  史 人 死 終 水 秋
 
 秋、水、終はほぼ同音で、死と史も。AAABCBという脚韻ですね。

くるりの本当に拙訳:
  もう13歳になっちゃったけど、
  世界はあんまり変わりなく、人生はガンガン変わる。
  僕も、さっさと歴史に名を残してやるぞ!

□報告

 パブジーンの優良誌に選定されました。
 ウフッって感じです。
 だからって読者様には何も起こらないんですが、嬉しいから報告します。

□読者数

 長い物を書き終わる度に、毎回読者数がカクっと微減して、そして次号発行までになぜか復活してたり。完全にではないので微妙に減っていくんですが、世の中は不可思議なことだらけです。
 宣伝に精を出すより、(少なくとも)自分が書き残して置きたい物を、文章にして捻り出すことに精を出したいので、やっぱりこのまま微減を続けていくんのかなあ、と、ぼんやり。

□近況

 最近、研究以外に没頭する事が多くありまして、それに掛かりっきりで時間がうまく取れてないです。相変わらず時間感覚の無さをうらやんだり。もっと、使い方うまくならないと、まともな生活を営んでいる人に出会う機会が減るなーなんて反省。

 先月末のイースター週間に、ロンドンで毎年恒例のオックスフォード対ケンブリッジのボートレースがありました。ロンドン西部のテムズ川のほとりで開かれたようで、僕は見に行ってないんですが、見事オックスフォードが栄冠を勝ち取ったようです。その日は、朝早くからロンドンに出かけたみんなが、おおいばりで帰ってきてました。

 学部からオックスフォード大学(or ケンブリッジ)にいる人などは、まるで巨人阪神戦の阪神ファンのように燃えて、その勝敗に一喜一憂するとか。大学院生は他の国や他大学から沢山来てるという事情もあって、そこまでヒートアップしないようです。かく言う僕も、ぼんやり嬉しいかなあと思うだけで……。

 パブでケンブリッジの奴とすれ違うと、負けた奴は向こうに行ってろといいながら、ズカズカと入っていけるとか。やっぱりこの国、面白いけど変だなぁ。

□次回予告

 次号は、第八録「敗残者(仮)」です。お楽しみに!

 メールで質問など送って下されば、文章の中でちょこちょこ応えていこうと思ってますので、皆さんどしどしメール下さい。結構頑張って、個別に返信もしています、半々ぐらいで(汗)。

by Kururi
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
      !!無断転載厳禁!!     
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行者名:くるり 学 (kururi@lycos.co.uk)
マガジン名:英国留学 牛津録
発行周期:ほぼ隔週刊(不定期って申請したのに[泣])
発行人サイト:http://members.tripod.co.uk/kururi/
http://members.tripod.co.jp/kururi_m/
(C)M.Kururi, 2001-2002. All rights reserved.
このメールマガジンは『まぐまぐ』『melma!』『メルマガ天国』『Pubzine』 で発行しています。マガジンIDは以下の通りです。
(まぐまぐ: 80277)(melma!: m00055251)(メル天: 8665)(Pubzine: 16678)





SIDENOTES

 * 漢詩:
逝く者≒過ぎ去った、十有三年の月日。恐らく人ではありません。
安得んぞ=イズクンゾ
千載青史=センザイ セイシ≒千個くらいある、歴史の話!?

 *1 ピジョン・ホール……直訳すると、伝書箱。カレッジにある、個人用郵便箱で、カレッジからの公的な知らせもそこに投函されるから、なるべく毎日チェックする必要がある。

 *2 呉れ呉゛れも=くれぐれも 「く」の古い慣用的表式。他の使用法に「〜〜して呉れ」

 *3 ゲーム・ウオッチ……ゲーム・ウォッチ。二十年近く前に、子供達の間で流行したカードサイズの携帯用ゲーム機。ゲームと時計の機能を兼ね備えている所から命名されたと思われる。

 *4 アンビバレント……両性的なとかそんな感じだと思います。元はフランス語。詳しくは辞書参照。

 *5 フリッジ……冷蔵庫=リフリジェレイターの略、俗語。

 *6 クイーン・マザー……その名の通り、女王陛下の母親。エリザベス皇太后。先々々代王の次男坊に嫁いできた女性なのだけど、義理のお兄さん(皇太子)が即位した後、突然辞退。アメリカの女性(離婚歴あり)と結婚する為、王位を弟に禅譲した訳です。で、突如、王妃となった彼女は、戦時中に爆撃地で身を晒し続けたり、宮殿内を急遽畑に変えるという提案をし、カリスマ的人気を獲得した人物らしい。例のヒトラーにも「かの英国に、エリザベスあり」と言わせたとか。それから10年後の19    55年、夫がなくなって2女児しか授からなかった彼女は、長女に即位する事を薦める。エリザベス2世の誕生である。人気的には、彼女が女王になる方が順当と思われるのだけど、その辺りの詳しい経緯は関連本を参照して下さい。


  • 登場英単語:
    ピジョン・ホール …… pegion hole
    フリッジ …… fridge



Body

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■DOMI|MINA■  くるり学 の                ■■■■
■ NVS|TIO ■          牛津録           ■■■■
■ILLV|MEA ■        oxford  record         ■■■■
■ |VVV| ■                第七録     ■■■■
■■■■■■■************************■■■■

●第七録「故郷からの手紙」

 
  2002年3月30日、ピジョン・ホール(*1)に一通の国際郵便が入っていた。
 いつも通りにその紙束を鷲づかみして自分の家へ戻ると、TVを付けソファ
 ーにどっと腰を下ろし、鞄に詰め込んだ紙束を整理している時に、それと
 気付いた。
  差出人の名を見ると、見慣れた筆跡。仄かに香る田舎。それは、故郷に
 いるよく知った人からの手紙だった。
 
 
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

   学へ
  
   拝啓。
  
   新緑の春、早くも桜散り、例年になく温かい季節を迎えたかと思え
  ば、暦に無い寒の戻りのさなか、自然の不可思議さを垣間見つつ手紙
  を認(したた)める。春は曙と言うけども、春眠は暁を覚えず。寝て
  ばかりで絶好の時間を逃しつつ、贅沢な時間を手に入れているこの頃。
  
   学、元気でやっているか? 
   寒さが幾分か節々に訴える所あるけども、お父さんもお母さんも元
  気です。この返信が存外に遅れてしまい、ひょっとして届いてないか
  と思わせたかも知れないけども、学からの手紙はちゃんと届いていま
  す。早く出そう早く出そうと思っていたのだけども、思うように筆が
  進まず、何時の間にやら寒い季節が過ぎ去ってしまったようですよ。
  遅くなって済まない。
  
   偶にだが、こうして二人で手紙の遣り取りをしていると、いつお前
  が大きくなったのかと驚く事しきりで、嬉しくもあり淋しくもあり、
  複雑な気持ちです。早い物で、お前が家を出てから、もう彼是(かれ
  これ)十年近くになるのかな。兄弟も皆、古屋敷を離れ、私も長く就
  いた職を離れ、悠悠自適とは名ばかりの些か怠惰な日々を過ごしてい
  ます。そう言った生活をしていると、昔のことなどを良く思い出し、
  思い出しがてらに綴ってみようと思い立ちました。
  
   覚えとらんと思うけども、お前が二歳の頃、それはやんちゃな聞か
  ん坊で、親の言う事を聞かず外に飛び出しては、よくあちらこちらに
  怪我を作って帰って来てたんだよ。それである日、中々帰ってこない
  からどうしたのかと思って探し歩いたら、何百mも先の公園で、もの
  凄い量の食べ物を長椅子に揃え、独りゆっくりと食べていた。こいつ
  は将来大道芸人にでもなるかと思った。またある日、同じように探し
  歩いていたら、今度は、子供にはとても入れそうもない溝の下まで降
  りていて、独りで何かをじっと見つめておった。何かと思って覗いて
  みたら猫の死骸で、結局二人で弔ってあげたことを覚えている。こい
  つは将来お坊さんにでもなるかと思った。そんな具合に、よく遠くま
  で彷徨い歩いていたから、今海外に住んでいるのも納得する事しきり
  です。
  
   故郷を出て、遠く異郷の地に身を置き、自分のやりたい事をまっと
  うすると言うのは、大いに結構と思っています。家名を継ぎ、家を守
  る土地を守るというのは、周りのもんがそう言うこともあるが、今時
  の有り方じゃないと思っている。自分のやりたい事をまっとうする事
  の方が遥かに意義深いのだから、学に限らず兄弟みんな、わしらの事
  は気にせず頑張ってやって欲しい。お前の場合、遠く海外の地で立派
  に学問を修めること。大変と思うが、健康に気を付けて頑張って欲し
  い。お父さんはそう思っているよ。ただ、お前がこれまで学んできた
  事、貴い伝統文化という物を呉れ呉゛れも(*2)忘れないで欲しいと思
  う。
  
   ついこの前、病院にいた時、中学に入りたての男の子と同席になっ
  て偶々話す機会を得たのだけども、近頃の子供と話をして驚かされた。
  何でも、千羽鶴を折ったことが無いやら、外で野球をしたことが無い
  やら。それから、釣りをしたことが無い、川で泳いだことが無い、先
  生に殴られたことが無い。先生に殴られる必要はないかも知れんが、
  先生に殴られるようなことをするのも子供の仕事じゃないかと思う。
  それで、じゃあ何をしておるかと聞けば、塾に行って勉強をし、家に
  帰ってゲームをするらしい。最近はゲームウオッチ(*3)と言わず、ゲー
  ムボーイなんたらかんたらと言うらしいな。その子は、目の前でそう
  言うゲームをしておったから、恐らく家だけではない。そこで思い出
  すと、学もよくゲームをしていた。しかし、また同じくらい外で遊ん
  でいた記憶がある。外で遊んだ記憶無しに彼らがこのまま成人していっ
  て、果たして日本という国の形をしっかり理解した大人になれるのか、
  甚だ疑問となった。それで、その子に漢字の話と漢詩の話を色々とし
  てやったら、いたく喜んでいた。こう言う事が非常に重要なのだとし
  みじみ思い始めたよ。
  
   お前も知っている通り、先日自然災害で伯母さんが亡くなられ、相
  次ぐように癌で伯父さんが亡くなられた。伯父さんの方は戦争の時の
  が少しは影響しているかも知れんが、それもまた天命じゃないかと思
  うよ。こう言うことがあると、余計時代の移り変わりを感じ、少しで
  も良い物を後世に残したいと言う風な気分になる。お父さんが残す物
  と言ったら形有る物ではお前らしかおらんが、価値ある無形の物の内、
  幾らか残せる物を伝えていこうと思う。
  
   最後に、頼山陽の詩を贈ります。
  
          千 安 人 天 逝 十  述
          載 得 生 地 く 有   
          青 ん 生 始 者 三  懐
          史 ぞ 死 終 は  
          に 古 有 無 已 春
          列 人 り く に 秋
          す に     水  
          る 類     の  
          を し     如  
          え て     し  
          ん          
  
                              敬具。
  
                              父より
  
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
  読んでいて、嬉しいような憎たらしいような、そんなアンビバレント
 (*4)な笑いを始終こぼしてしまった。父の父らしさが弱々しく、丸くなっ
 た物腰が浮き上がって来る。僕は手紙を暫く見つめた後、テーブルの上に
 置いて紅茶を淹れに席を立った。
 
 
  僕は決して漢詩に詳しくない。だから、最後に付け加えられた漢詩も正
 確な意味を把握することは出来ないし、日本人用の漢詩読本もここには皆
 無だ。そんな前置き付きで、兎にも角にも解釈してみる。
 
  十有三は十三、春秋は一年のことで、水のように何かが過ぎ去り、天地
 は世界を意味し、人生はそのまま人生だ。古人とは、いにしえの有名な人、
 例えば李白とか杜甫、孔孟老荘子で、それらに名を連ねようという流れ。
  なんのことはない、野望発揚の詩だ。
 
  オックスフォードで功を上げ名を成し、歴史に刻まれるほど頑張れよ、
 とでも言いたいのだろうか。父からの思いは有りがたいけど、旧態然とし
 た短絡的偏差値思考・上昇志向には、もう乗れそうに無い。まるでイギリ
 ス人にサービス向上を諭すような文面に見えて、なんだか虚しく感じられ
 た。
 
 
  紅茶を淹れ終わった僕は、フリッジ(*5)からバターとジャムを取り出し、
 テーブルの上、紙束の横に並べる。ポットとカップも揃えて焼きたてのス
 コーンを片手にドッカと腰を下ろすと、一人アフタヌーン・ティーに興じ
 る。そして、雑音の聞こえてくる場所へと視線を動かし、小一時間ぼけっ
 と眺め続けた。
 
  TVからは、サッカー中継の合間に、クイーン・マザー(*6)崩御のニュ
 ースが流されていた。
 
 
 (了)
 
 
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




LINKS